ヨガ哲学の小部屋「幸せをもたらす高速道路のトイレ」 加藤香耶

ヨガ哲学の小部屋、今回は加藤香耶先生の小話です。
担当クラス:
月曜10:00-11:30 入門
木曜10:00-11:30 OPEN

「幸せをもたらす高速道路のトイレ」

ヨガの根本経典「バガヴァッドギーター」には、次のような言葉があります。
「最初は毒のようで、結末は甘露のような幸福、それはサットヴァ的な幸福である」

サットヴァとは、純質を意味するサンスクリット語です。本当の意味での幸せとは、最初は毒のように苦い。苦味を味わっているうちは、そのようなことを信じられないかもしれません。それでも、険しい山道を登りつめた後に山頂から眺める景色が「絶景」であるように、苦ければ苦いほどそのあとに味わう幸せの甘美さが増すのでしょう。困難な出来事に心かき乱されることがあっても嘆くことはありません。苦味を味わうからこそ、普段は気付くことのない日常の風景が、頑張って登りつめた山の頂きからの眺めのように、輝いて見えるのですから。

今年のゴールデンウィークに、私は子どもたちと3人で奥多摩の御岳山に出かけました。これまで、夫や両親と山を訪れたことはありましたが、母子3人での訪問は初めてでした。子連れで出かける際の重要事項のうち、上位ににランクインするのはおそらく「トイレの場所」です!車で出かけるにしろ、電車にしろ、どこでトイレに寄るかあらかじめ想定しておくのが、小さな子を持つパパママ界での常識と言っても過言ではないでしょう。

私は、念入りに調べました。特に山の中でのトイレ。一度逃したらしばらく出会えない可能性があります。インターネットや、以前に御岳山を訪れた時に手に入れたガイドブックで、何か所かのトイレの場所を確認しました。

脳内地図も準備万端でいざ山に入りました。最初の休憩ポイントで水分をとらせ、トイレに行かせようとしました。そこで目に飛び込んできたのは、トイレ待ちの人の長蛇の列。ざっと20人以上。山の中のトイレは、せいぜい一か所に個室3つくらいのもです。順番が回ってくるまでにかなり時間がかかりそうでした。うわー、と思いながら並んでいると、数分後に恐れていた事態が起こりました。

「お母さん、漏れそう!」
息子が、小刻みに震えています。

しまったー、とあたりをキョロキョロしても、ほかにトイレに代わるものが見つかるはずもありません。なすすべも無く、ただひたすら息子を励ましました…

なんとか危機を乗り越えて、また歩き出しました。

次の休憩ポイントで、昼食をとりました。そこにも、トイレがあることを確認していたのです。念入りな下調べにより決めていたその場所も、やはりトイレは長蛇の列…ゴールデンウィーク恐るべし、と思いつつ、やはりほかに打つ手がないので並びます。ここでは、娘がピンチを迎えました。絵に描いたようにモジモジとしはじめ、泣きべそをかいて「漏れそう」と言うのです。ハラハラしながら、ここでもどうにか危機を乗り越えました。

これを、山を下りるまでにあと2回も繰り返す羽目になろうとは…ふもとに停めた車に乗り込んだ時には「いったい山にいた時間の何割をトイレに割いたのだろう…」と思いました。

そして高速道路に入った頃、息子が「トイレに行きたい」と言い出しました。またか…と思いつつ、それを後回しにすることはできないので、一番近いサービスエリアに駐車しました。連休中のサービスエリアはさすがに混んでいましたが、そこで目にしたのは無数とも思えるくらいの、トイレの個室でした。スムーズに用を足し、手を洗ってすっきりした顔の息子の姿を眺めながら、並ばずにトイレに入れるって、なんて素晴らしいのだろう!と感動すら覚えました。

並ばずにトイレに入れたことに感謝したことが、いまだかつてあったでしょうか。あとから思えば、どうでもいいことなのかもしれません!笑 それでも、毒のような苦味を味わい尽くしたあとには、甘いご褒美の甘さが何倍にも増すということ。「トイレがたくさんある」というただの事実でさえ、ありがたき幸せと感じたのでした。気分よく、夜の中央道を走り抜け、自宅へ戻りました。

「お山楽しかったね、トイレ並んだけど」
子どもたちの会話にドキッとしながらも、そのたびに、サービスエリアで感じた幸せを思い出すのでした。

ふいに、目をそむけたくなるようなできごとが自分の身にふりかかったとしても、嘆くことはありません。心かき乱す困難なできごと。それが苦ければ苦いほど、当たり前の日常の中に、甘露のような幸せがひそんでいることに、きっと気づくはずです。

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御岳山にて。

加藤香耶

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